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決然
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20代前半の畑中はそれまでの商社を辞めて、水商売の世界に入る。はたして、愛読小説の中に見た男たちの壮絶なドラマは繰り広げられたのか?想像に描いていた通りの実力の世界だったのか?これは畑中が若かりし頃・・・20年程前の物語である・・・
ja
Wed, 01 Apr 2009 05:00:00 +0900
Thu, 21 Dec 2023 08:39:11 +0900
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1950年代のアメリカに憧れ、ライフスタイルをフィフティーズ一色に。21歳で結婚したが27歳の時に離婚。その際、今までのライフスタイルと趣味をすべて封印する。会社員、水商売、調査会社を経て私立探偵に。
横浜探偵ストリート
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あの頃の夢をもう一度・・・
白犀(びゃくさい)氏の 朗読BGMシリーズにて朗読して頂きました。
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第三話
営業面で店長はホールを見なくなり、私はウェイター業務を卒業し、女の子の付け回しを任された。
付け回しとは、コンパニオンの移動を指示して、効率よく指名テーブルを回らせたり、テーブルの様子を観察して、コンパニオンを入れ替えたりする業務である。
また売上向上の為に、女の子にオーダーを追加するように促しながら、テーブルに付けていく事もある。
付け回しは基本的にホール担当なので、ホールの事はすべて把握していなければならない。
すべてのテーブルの会話を知っていなければならないし、客が退屈していないか、金をいくら使ったかも考えなければならない。
勤勉な付け回しと怠慢な付け回しとでは、売り上げにも雲泥の差が出てしまう。
望月は私が主任になってからというもの、時間が空けば必ず話しかけてくるようになっていた。
自分が水商売に入る前は証券会社に勤めていた事、目標は店の売り上げではなく、部長となり横浜プリンスの何十店舗もの店を統括する事、それから、水商売をやっていく上での自分の考え方。
「水商売に入る男は普通に世の中でやっていけない奴らが殆んどだ。
吹き溜まりだよ。
だから俺たちは人が遊んでいる時に働いて、そいつらよりも高い報酬を手にするんじゃないか。
大金を掴まなきゃ水商売をやっている意味ないぞ」
内容は彼の主観が殆んどであったが、会話を嫌っていたと思えていた望月が熱く語ってくる、その行為に私は喜びを感じていた。
「仕事中でも、お前は質問が少ないよな」
「言われた事を実行して、自分で考える事が、今の自分の仕事だと思っていますから」
「それはいい」
私からの会話は少ないが、私は望月を尊敬し、慕っているのかも知れなかった。
主任になってからは、むしろコンパニオンである女の子と話す事を強要される。
営業終了後、望月に今日はコンパニオンと話したかと訊かれるのだ。
営業中でも時間をとって話さなくてはならない。
指名テーブルがある場合も、テーブルから呼んでコンパニオンと会話をする。
内容は何でもいい。
常に話し掛けるように心がけた。
無口だと思われていた私の言葉には、誰もが耳を傾けた。
自分の恋人のように関心を示し、自分の恋人のように話し掛けるのだと教えられた。
朝礼は私が進行していた。
挨拶、点呼、今日のスケジュール、心がける事、そこに店長である望月の一言である。
私にはまず、コンパニオン五人の担当が配分された。
その子たちの出勤を増やし、売り上げを伸ばす為の担当だ。
その後、望月が転勤になり店長が替わるまで、望月と半分ずつ担当を任される事になる。
私は出勤すると相変わらずトイレ掃除を行っていた。
他の業務に支障をきたさなければいいのだ。
主任の私がトイレ掃除を行っているのだから、新人はそれを見て、さらに動かざるを得ない。
トイレ掃除を終えると、その日、出勤の子を出勤盤に揃える。
名前が札になっており、出勤の子はおもてにして提げるという物だ。
それを事務室のよく見える所に置き、その日の職務配置表を書き込む。
誰がウェイター、誰が客引き、誰がフロント案内、誰がリスト付け、誰が付け回し、という物である。
さらに売上目標、客数、客単価などを決定して書き込む。
食事を済ますと出勤する女の子たちへの電話で、何時に出勤するのか、客は呼んだのか、同伴はするのか、事細かに会話の中に織り交ぜていく。
十八歳、十九歳という年齢の子たちを扱っているウチの店などは、往々にして女の子に時間通り出勤させる事に苦労した。
必要な事しか話さない水商売の男の縦社会とは裏腹に、どうでもいい雑談で女の子を楽しませる。
これが必要なのである。
人間関係が出来上がっていないと、やりにくい仕事だった。
午前二時、営業が終わると、その日の売り上げを計算し、個々の売り上げに分けていく。
色々とやることはあり、帰れるのは朝となっていた。
しばらく経つと今度は、もっとコンパニオンに叱る事を望月から求められた。
コンパニオンとの人間関係が出来上がってきた証拠だ。
それからは凄く厳しく叱った。
よく出来た時にはよく褒め、感謝もした。
そうなってくると、もう、こちらのペースだった。
面白いように売り上げも上がる。
店長の望月は転勤となった。
コンパニオンである女の子と関係し、トラブルを起こしたからだ。
普通なら百万円の罰金を徴収され、解雇となる。
入社する時にそういった内容の文面に皆、署名をしているからだ。
上層部から認められ、気に入られてもいた望月は、他店へ転勤させられ、副店長に降格する事だけで済んでいた。
新しい店長が他店から配属されてからは、店長よりも私の方に女の子たちが慣れている為、ほぼ全員の面倒をみた。
店長は売れそうな子だけ気に留めていればいいのである。
主任は主任の仕事をこなせばいいだけではなく、上司が全ての面で楽をするようにサポートをし、初めて上が見えてくるのだ。
店長は替わったが私は望月のやり方や方針が気に入っていた為、その方針を貫いたが他店から配属されたその店長は、自分の方針を打ち出そうとはしなかった。
私は自分の店だという感覚で、売上高を更新していった。
朝まで売上計算やミーティングを行い、昼頃には新しい子を揃える為に、会社でスカウト要員として雇われている、十代の若い衆たちと共に街に繰り出し、女の子に声をかけるという日々が続いた。
「畑中、ちょっといいか」
営業が終わってから来ればいいものを、と思いながら私は部下に店内を任せ、次長の後について奥の事務室に向かった。
この男が営業中に雑談をしにやってくるのは何度目だろうか。
「お前にしか出来ない事がある」
言葉には期待させるニュアンスが含まれていたが、私は嫌な気分に襲われた。
「一部の幹部で話し合ったんだ。
今のプリンスに本部長はいらない」
「それで、俺に何が出来るんですか?」
「店長の上にいる山田さん、知ってるだろう。
店部長の。
彼は本部長が引き抜きで連れてきたんだ。
仕事もろくに出来はしない。
山田さんと問題を起こせよ。
きっかけは何でもいい。
喧嘩すればいいんだ」
「上司とですか?」
「俺がやれと言ってるんだよ。
お前の事は俺が守ってやる」
「この事は、望月さんも知ってるんですか?」
「ああ、知っている。
そうか、お前はずっと望月の直属だったもんな」
望月からは何の連絡も来ていない。
恐らく、望月に意見する権限はないのだろう。
こんなやり方をいいと思っているはずはなかった。
しかし、私にも選択の余地はない。
https://office.hama1.jp/e95770.html
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第三話
Wed, 01 Apr 2009 05:00:00 +0900