2009年04月01日
第四話
私は店部長である山田を辞めさせる直接の原因を演じる役となり、あとは幹部会で本部長の責任問題を追及したとの事だった。
それを発端に他の責任問題も取り上げて、本部長を本社本部へ吊るし上げ、本部長は解雇となった。
内部はガタガタである。
グループのトップ不在で、幹部同士にも不信感が募っていた。
山田の管轄であった私の配属されていた店は、幹部会でリニューアルオープンする事が決定し、私は転勤になった。
横浜の水商売業界で一番大きな会社だ。
店は幾らでもある。
私はもっと大きな店へと移ったが、主任の肩書きが付いたまま、掃除、ウェイターからのスタートだった。
当たり前である。
通常の店では、平社員、主任、支配人、副店長、店長、という順番であるから、主任なんていうのは、ギャルソン指揮程度の仕事しか与えられない。
しかも、横浜プリンスの中では歴史のある店なので、いきなり私の働きで売り上げが上がるというものでもなく思えたが、すぐにフロントを任され担当も与えられた。
以前の店から移籍してきた女の子たちも、私のウェイター姿には相当ウケていたものだ。
しかし、縦社会で規律の厳しい水商売である。
上にコロコロと変わられては、どうもやりにくい。
殆んど、上司に男惚れして付いて行かなければ、一ヶ月ともつような仕事ではない。
実際、新人従業員の大多数が一ヶ月くらいで辞めていく。
上層部の裏工作に利用された私にとって、水商売業界に対する魅力は消え失せ、せめて、望月と一緒に仕事がしたいと願うばかりだったが、再び同じ店に配属される可能性は皆無に等しく、私は辞表を提出し、辞めたい理由を説明した。
もともと、自分が水商売向きだとも思っていなかった。
その日から毎日のように、次長に飲みに連れて行かれた。
営業中にだ。
しばらく、タイムカードは打つが、仕事もせずに飲み歩く日々が続く。
営業終了近くになって帰ってくるのである。
その間、次長の「辞めるな」という説得も続く。
営業が終わってからは、副店長の赤上に飲みに連れて行かれ、やはり、一緒に仕事をしていきたいと熱く語られた。
赤上とは馬が合い、彼の仕事の仕方も私は気に入っていた為、赤上には断固としてというような態度はとれなかった。
そして、無理やり三連休で有給休暇も与えられ、旅行にも行かされた私は困り果ててしまっていた。
その頃、望月も会社に辞表を提出していた。
理由は分からない。
彼もはじめは「辞めるな」と説得されていたようだが、次長は彼の決意が固い事を悟ると、従業員や幹部連中に望月の悪口を言い始め、 仕舞には店の若い衆を集めて「あいつは、俺がこんなに目を掛けて可愛がってやったのに!」と嗾けて、辞めた日に、家まで殴り込みに行かせたのである。
その日、営業が終わり、売上計算をしていると、支配人である佐々木が酔っ払った状態で店に入ってきた。
考えてみれば営業中に佐々木の姿を見ていない。
「お前はあの野郎と仲が良かったよな!」
いきなりの衝撃。
顔、腹と来て、私は床にしゃがみこんだ。
上司に殴られる事には慣れている。
自分に言い聞かせた。
靴が見え、視界が赤く染まり、錆びた鉄の匂いがした。
佐々木が羽交い絞めにされ、次長に怒鳴られていた。
腑に落ちない事だったが、次長が私の味方になっているかたちだ。
佐々木は望月の事で激怒したのだと、あとで聞かされた。
また再び、私には転勤の辞令がおりた。
ニューオープンの立ち上げである。
一番早い出世コースと言われている。
新店は軌道に乗った時点で昇格が決まるので、新店の人事には、かなり慎重だという話だった。
辞表の件はどこかに流れ、私が支配人に昇格する日が近いと目された。
しかも話題性に富み、テレビの深夜番組でも紹介される予定の店となる。
ニューオープン準備の一ヶ月間、私は予定の店舗で電話番や面接受付、仕入れ準備などを行った。
暇な時は本を読んだりする事も許されていた。
次長は多くのトラブルに巻き込んでしまった私に、充電期間でも与えたつもりだったのだろう。
それでも、私の気持ちが変わる事はなかった。
それを発端に他の責任問題も取り上げて、本部長を本社本部へ吊るし上げ、本部長は解雇となった。
内部はガタガタである。
グループのトップ不在で、幹部同士にも不信感が募っていた。
山田の管轄であった私の配属されていた店は、幹部会でリニューアルオープンする事が決定し、私は転勤になった。
横浜の水商売業界で一番大きな会社だ。
店は幾らでもある。
私はもっと大きな店へと移ったが、主任の肩書きが付いたまま、掃除、ウェイターからのスタートだった。
当たり前である。
通常の店では、平社員、主任、支配人、副店長、店長、という順番であるから、主任なんていうのは、ギャルソン指揮程度の仕事しか与えられない。
しかも、横浜プリンスの中では歴史のある店なので、いきなり私の働きで売り上げが上がるというものでもなく思えたが、すぐにフロントを任され担当も与えられた。
以前の店から移籍してきた女の子たちも、私のウェイター姿には相当ウケていたものだ。
しかし、縦社会で規律の厳しい水商売である。
上にコロコロと変わられては、どうもやりにくい。
殆んど、上司に男惚れして付いて行かなければ、一ヶ月ともつような仕事ではない。
実際、新人従業員の大多数が一ヶ月くらいで辞めていく。
上層部の裏工作に利用された私にとって、水商売業界に対する魅力は消え失せ、せめて、望月と一緒に仕事がしたいと願うばかりだったが、再び同じ店に配属される可能性は皆無に等しく、私は辞表を提出し、辞めたい理由を説明した。
もともと、自分が水商売向きだとも思っていなかった。
その日から毎日のように、次長に飲みに連れて行かれた。
営業中にだ。
しばらく、タイムカードは打つが、仕事もせずに飲み歩く日々が続く。
営業終了近くになって帰ってくるのである。
その間、次長の「辞めるな」という説得も続く。
営業が終わってからは、副店長の赤上に飲みに連れて行かれ、やはり、一緒に仕事をしていきたいと熱く語られた。
赤上とは馬が合い、彼の仕事の仕方も私は気に入っていた為、赤上には断固としてというような態度はとれなかった。
そして、無理やり三連休で有給休暇も与えられ、旅行にも行かされた私は困り果ててしまっていた。
その頃、望月も会社に辞表を提出していた。
理由は分からない。
彼もはじめは「辞めるな」と説得されていたようだが、次長は彼の決意が固い事を悟ると、従業員や幹部連中に望月の悪口を言い始め、 仕舞には店の若い衆を集めて「あいつは、俺がこんなに目を掛けて可愛がってやったのに!」と嗾けて、辞めた日に、家まで殴り込みに行かせたのである。
その日、営業が終わり、売上計算をしていると、支配人である佐々木が酔っ払った状態で店に入ってきた。
考えてみれば営業中に佐々木の姿を見ていない。
「お前はあの野郎と仲が良かったよな!」
いきなりの衝撃。
顔、腹と来て、私は床にしゃがみこんだ。
上司に殴られる事には慣れている。
自分に言い聞かせた。
靴が見え、視界が赤く染まり、錆びた鉄の匂いがした。
佐々木が羽交い絞めにされ、次長に怒鳴られていた。
腑に落ちない事だったが、次長が私の味方になっているかたちだ。
佐々木は望月の事で激怒したのだと、あとで聞かされた。
また再び、私には転勤の辞令がおりた。
ニューオープンの立ち上げである。
一番早い出世コースと言われている。
新店は軌道に乗った時点で昇格が決まるので、新店の人事には、かなり慎重だという話だった。
辞表の件はどこかに流れ、私が支配人に昇格する日が近いと目された。
しかも話題性に富み、テレビの深夜番組でも紹介される予定の店となる。
ニューオープン準備の一ヶ月間、私は予定の店舗で電話番や面接受付、仕入れ準備などを行った。
暇な時は本を読んだりする事も許されていた。
次長は多くのトラブルに巻き込んでしまった私に、充電期間でも与えたつもりだったのだろう。
それでも、私の気持ちが変わる事はなかった。
Posted by H (agent045) at 04:00
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